2020年も引き続き活用できる <キャリアアップ助成金>
最近、いわゆる「就職氷河期世代」の雇用対策に関するニュースをよく目にするようになりました。就職氷河期世代とは、現在30代半ばから40代の世代を指します。
就職が特に厳しい時期で、非正規雇用労働者として不安定な生活を強いられている人も多く、長らく問題となっています。
一方で応募者が殺到して話題となった宝塚市役所のように、就職氷河期世代に限定した正規雇用求人を出す自治体や企業も徐々に増えているようです。
その世相を踏まえて、今回は「キャリアアップ助成金 正社員コース」に関する内容です。
キャリアアップ助成金とは?
「キャリアアップ助成金」とは、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者などの非正規雇用労働者の企業内キャリアアップを図った事業者に給付される助成金です。
「正社員コース」を含め全部で7つのコースがあります。
正社員化コースとは?
就業規則等の規定に基づいて、有期契約労働者や派遣労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した事業者を助成するものです。
例えば、アルバイト社員の能力を見込んで正社員として再雇用するケースを想像してもらうとわかりやすいでしょう。
助成金の額は以下のようになっています。
① 有期雇用社員を正規雇用社員へ切り替えた場合
1人当たり57万円<72万円>(42万7,500円<54万円>)
② 有期雇用社員を無期雇用社員へ切り替えた場合
1人当たり28万5,000円<36万円>(21万3,750円<27万円>)
③ 無期雇用社員を正規雇用社員へ切り替えた場合
1人当たり28万5,000円<36万円>(21万3,750円<27万円>)
※< >は生産性の向上が認められる場合の額
※( )内は中小企業以外の額
名ばかり正社員、はNG
それでは仮に、肩書はアルバイトから正社員に変更したけれど、給料や待遇はほとんど変わっていない…という場合でも助成金をもらうことはできるのでしょうか。
答えはもちろん「NO」です。
「転換後6か月間の賃金を、転換前6か月間の賃金より5%以上増額させている事業主であること。」
「転換後の基本給や定額で支給されている諸手当を、転換前と比較して低下させていない事業主であること」
など、様々な条件があります。
実際に処遇を改善させたことを証明しなくてはならないのです。
さらにはキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるため、今後のおおまかな取り組みイメージをあらかじめ記載した「キャリアアップ計画書」の作成も必要です。
事業主にも、就職氷河期世代にとっても力強い味方になりうる「キャリアアップ助成金」。
ですが、支給要件はやっぱり少し複雑です。
興味はあるけど申請が難しそう?と不安な方は、ぜひお気軽にご相談ください。
忘年会って残業代出ますか?
年末が近づき、なんだか慌ただしい気持ちになっている人も少なくないのではないでしょうか。
年末と言えば忘年会。
そろそろ忘年会の予定が入り始めるころでしょう。
取引先や友人・知人との忘年会に加えて、会社行事としての忘年会もあります。
ただ最近では、若手社員から「忘年会に参加したら残業代でますか?」といった質問が出ることもあるようです。
忘年会でトラブルに?!
「残業代なんて出るわけがないだろ!」
「忘年会は、他部署との懇親を深める意味合いもあるんだから出るのが基本!」
「新入社員は出し物も考えておくように!」
なんていう昔ながらの考え方は非常に危険です。
こんなことを言ってしまうとすぐに「パワハラ」「未払い残業代」のトラブルに発展してしまう恐れがあります。
そのようなトラブルを起こさないためにも管理職を中心に基本的な考え方は共有しておくことが望ましいと言えます。
そもそも労働時間とは?
残業代が発生するということは、労働時間に当たるということになりますのでまずは、労働時間の考え方について確認しましょう。
労働時間とは「原則として使用者の指揮命令下に置かれたもの」とされており、これは労働時間について判断をした<三菱重工業長崎造船所事件>の中で述べられています。
「使用者の指揮命令下に置かれている」とはどういうこと?
「使用者の指揮命令下に置かれている」とは、一律に判断することは難しいですが次のいずれにも当てはまれば、使用者の指揮命令下に置かれているとされる可能性が高まります。
□事業主が場所を指定して、その場にいることを要求している
□事業主が時間を指定して、その場にいることを要求している
□その要求に応えないことによる不利益がある
明確な要求をしていなくても「基本的にはみんな参加しているから」等、実質的に参加を強制するような言動があると事業主からの要求があったとみなされる可能性があります。
忘年会が労働時間に当たるか?
忘年会が労働時間に当たるか、そして残業代の支払い義務が発生するかについては、個別に判断していく必要があります。
具体的には、次のことに当てはまると労働時間に当たると判断される可能性が高まります。
□忘年会への参加が強制されている(実質的なものも含む)
□忘年会の費用が会社の福利厚生費から支払われている
□忘年会へ参加しないことについてペナルティがある
会社行事としての飲み会等と同様に取引先との接待等についても同様に判断することになると考えられます。
裁判事例紹介
忘年会等の飲み会が労働時間に当たるかどうかは、過去の労働時間に関連する裁判事例を参考にして行くと良いでしょう。
○三菱重工業長崎造船所事件
労働者の作業服及び保護具等の装着・準備体操場までの移動等が労働時間に当たると判断された事例。
○行橋労働基準監督署長事件
中国人研修生との親睦を深めることを目的として、有志によって開催された私的な歓送迎会だったが会社から「歓送迎会に参加してほしい」旨の強い意向を示されたことで業務と認定された事例。
○大星ビル管理事件
24時間勤務における仮眠時間が外出を禁じられ、仮眠室における在室、電話の接受、警報への必要な措置が義務付けられていること等から労働時間に当たると判断された事例。
労働時間に当たると判断されれば賃金の支払いが必要になるので、独自の判断をせず専門家ともよく相談をすることを強くお勧めします。
まとめ
「忘年会に参加したら残業代でますか?」
このような質問が出るのは、社員が「プライベートを大切にしたい」と思っている一方で「参加したくない」という気持ちの裏返しでもあります。
このような声が出ないよう、日ごろからのコミュニケーション向上を図ったり、信頼関係の構築を心掛けたりすることも大切なのかもしれません。
ウーバーイーツで配達中のケガ労災保険は適用される?
インターネット上のニュースで「ウーバーイーツの配達員が自転車で配達中に自動車と衝突、ケガをしたが労災保険が使えなかった」という事例が報告されていました。
最近、街中でも黒や緑のバックを背負い自転車やバイクなどで食事のデリバリーをしている姿を見かけることが増えてきたウーバーイーツ(Uber Eats)。
Uberが掲げる<自由な働き方>として注目を集める一方で問題点も浮き彫りになってきています。
┃ウーバーイーツ(Uber Eats)とは?
スマートフォンを使った配車サービスを行っていたアメリカの企業が始めた食事のデリバリーサービスです。
配達員は、「配達パートナー」と呼ばれ、自ら登録をした学生や主婦などの一般の人が自ら所有する自転車やバイク等で飲食のデリバリーを行います。
従来、配達を行っていなかった飲食店もこのサービスを利用することによって、今までよりも幅広い層へのサービス提供が可能になっています。
┃ウーバーイーツ(Uber Eats)の仕組み
ウーバーイーツ配達パートナーになりたい人は、UberのWEBサイトから登録をします。
基本的には、18歳以上でスクーターやバイク、自転車、自家用車等を持っている人であればだれでも登録が可能です。
登録後の流れは次のようになっています。
- 専用アプリで仕事を待つ、受ける
専用のアプリで依頼を受けられる状態(待機状態)にしておくと各地の飲食店から「配達依頼」が届きます。
- 商品のピックアップ
依頼を受けた後は、飲食店へ食事等を取りにいき、顧客の指定する場所へ届けます。
依頼を受けられない時間帯は、「依頼を受けない」設定にしておくこともできますし、「依頼を断る」ことも可能です。
- 報酬の受け取り
依頼を受け、配達を完了するごとに手数料として報酬を受け取ることができます。
┃ウーバーイーツ配達パートナーは個人事業主
Uberの配達パートナー登録サイトでは、次のような記述があります。
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Uber なら、仕事のペースはすべてあなた次第。
朝だけ、夜だけ、土日のみなど、好きな時間に配達をすることができます。
短時間でも OK。
個人事業主なので、働く時間やスケジュールを決めるのは自分自身。
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このようにはっきりと「個人事業主」である旨が明記されています。
個人事業主であれば労災保険の適用を受けることはできないのはもちろん、労働時間等の労働関係法令や社会保険等の保護を受けることもできません。
┃ウーバーイーツ配達パートナーは労災保険の補償が受けられない
労災保険は、「労働者」を保護の対象としていますので、個人事業主であるウーバーイーツ配達パートナーの場合は労災保険の適用対象外です。
労働者と個人事業主は、次のような基準のもと実態を考慮していずれかに該当するかを判断します。
労働者 | 個人事業主 | |
賃金・報酬 | 時間に対して支払われる | 業務の完了に対して案件ごとに支払われる |
時間的拘束 | 労働時間を拘束される | 時間的拘束をされない |
指揮命令関係 | 事業主の指揮命令に従う | 業務の詳細な進め方については指示を受けない |
業務を受けるか否かの自由 | 原則、事業主の指揮命令に従い拒否権はない | 業務の受注については自由 |
社会保険 (健康保険・厚生年金保険) | 一定条件に該当する場合に適用される | 適用されない |
労働保険 (雇用保険・労災保険) | 一定条件に該当する場合に適用される | 適用されない |
よく、社会保険料や残業代の支払いを不当に免れるために「業務委託契約(個人事業主)」として契約を締結するケースもありますが、契約書のタイトルは関係なく実態で判断されるのが原則です。

┃自分の身は自分で守る必要がある
近年、重大な自転車事故も増えており、自転車による事故が数千万円から1億円を超える損害賠償に発展したケースもあります。
仮に労災保険が適用されたとしても労災保険は「労働者本人」への補償が原則であり「相手方」への補償はありません。
副業の一環として注目されるウーバーイーツ配達パートナーですが、以上のような問題点もあることには注意が必要です。
きっかけは、軽い気持ちの小遣い稼ぎ、割の良いアルバイト程度の気持ちかもしれませんが、様々なリスクもはらんでいることを忘れないようにしましょう。