日本政策金融公庫は2008年に設立された国が100%資本を保有している金融機関です。個人事業主や小規模事業者でも申し込みを受け付けており、融資制度によっては無担保・無保証人で融資を実施しています。
しかし、「日本政策金融公庫の審査に落ちる事業者はどんな理由が多いの?」「日本政策金融公庫って再審査は受け付けているの?」などの疑問が出てくるでしょう。
本記事では、日本政策金融公庫の審査に落ちる理由や再審査の概要・条件について解説します。日本政策金融公庫の審査に落ちた場合の対処法についても紹介するため、ぜひ参考にしてください。
日本政策金融公庫の審査に落ちた理由はコレ
日本政策金融公庫の審査に落ちる理由は、以下の通りです。
- 自己資金を創業資金総額の10分の1以上用意していない
- 事業計画書の内容に明確な動機や具体的な目標がない
- 斯業経験(開業予定事業の業務経験)を積んでいない
- 滞納・延滞・債務整理をして信用情報に問題があった
- 面談時に事業計画書の内容をうまく説明できなかった
それぞれ順に解説します。
自己資金を創業資金総額の10分の1以上用意していない
日本政策金融公庫の審査に落ちる理由の一つとして、自己資金を創業資金総額の10分の1以上用意できていないことが挙げられます。
以前は、日本政策金融公庫では、申し込み要件として自己資金が該当しました。創業前・創業して間もない事業者でも申し込める融資制度ですが、一定の自己資金がなければ審査に落ちる可能性が高いです。
実際に日本政策金融公庫は自己資金の要件を前述した金額で定めており、満たしていなければ審査通過は期待できません。日本政策金融公庫の審査に落ちた場合は、自己資金の金額を確認しましょう。
また、日本政策金融公庫の審査では、自己資金額が融資金額に直結します。申し込み時の自己資金額によって、実際に融資される金額が変動します。自己資金を希望融資額の3分の1ほど用意すると審査に通過しやすくなる傾向にあるため、事前にできる限りの自己資金を用意しておくと良いでしょう。
タンス預金などの見せ金は自己資金として扱われない
日本政策金融公庫の自己資金を用意する際は、銀行預金・土地などの資産を所有している必要があります。
現金を直接保有するタンス預金などは、審査時に見せ金として扱われる可能性が高いです。見せ金とは、金融機関の融資審査に通過するため、一時的に他者から借入れて自己資金が多くあるように見せる方法です。会社設立時や融資へ申し込む際に見せ金を使った場合は違法となります。見せ金は自社の資産額を騙して申告するため、発覚した時点で日本政策金融公庫からの融資は受けられません。
また、一般的に見せ金にならない資産は、銀行口座への預金・株・不動産・債券などが挙げられます。これらの資産は資料やデータなどのエビデンスが残るため、審査時にチェックされた際に自己資金として認識してもらえます。一方、タンス預金や親族から現金を借りて銀行口座の金額が急激に増加した場合などは、書類やデータが残らないため自己資金として証明する術がありません。審査担当者から不審な現金の流れを指摘されてしまい、審査に落ちる可能性が高いです。
そのため、タンス預金などで現金を直接保有している場合は、できるだけ早いタイミングで預金へ移し、会社の自己資金として管理しましょう。
事業計画書の内容に明確な動機や具体的な目標がない
日本政策金融公庫の審査に落ちる理由として、事業計画書の内容に問題があるケースがあります。
融資を申し込む際は必ず事業計画書の提出が求められます。事業計画書には、創業の経緯から事業内容・今後の見通しなどを記載します。特に日本政策金融公庫の審査では、事業計画書に明確な動機かつ具体的な目標が記載されているかをチェックされます。
なぜ新規事業を立ち上げるのか(創業するのか)やどんな目標に対して、計画をし、どのように再現していくのかを見られます。これらを満たしていなければ、事業計画書の内容がまとめられていないと認識され、審査に落とされる可能性が高いです。
また、事業計画書の内容に矛盾が生じている場合、審査に落ちてしまう可能性があります。融資担当者は情報の正当性・再現性に着目するため「数字的根拠のない売上アップ」や「突然の人件費をはじめとしたコスト削減」などは、信用できない事業計画書として認識されてしまいます。融資担当者は根拠を持って事業計画書の内容をチェックしているため、数字やデータなど情報を裏付ける内容の用意が必要です。事業計画書は提出前に矛盾が生じていないか、入念な確認を実施しましょう。
斯業経験(開業予定事業の業務経験)を積んでいない
日本政策金融公庫の審査に落ちる原因として、斯業経験の有無が挙げられます。
斯業経験とは起業・開業予定の事業における業務経験を指しており、融資審査では必ず確認が入るポイントです。特に斯業経験がない事業主の場合、一定の自己資金・高いクオリティの事業計画書を提出しても審査に通らない可能性があります。
日本政策金融公庫側は事業者への融資を実施するために「融資金額を問題なく回収できるか」を念頭に置いて審査しています。斯業経験のある場合はこれまでの経験を活かして事業を展開するため、事業内容に再現性があり、開業直後から良好な業績が見込めます。
しかし、斯業経験がない事業者だと経験不足から事業計画書が机上の空論になりやすく、再現性が見込めない可能性があります。実際に、日本政策金融公庫総合研究所上席主任研究員が調査した内容によると、斯業経験がない事業者が目標月商に達成した割合は19.6%です。一方、斯業経験のある事業者は、36.5%が目標月商を達成しており、1.8倍以上の差が存在します。
さらに、斯業経験があれば業界知識や技術力・人脈など、様々なスキルを活用した事業展開が見込めます。斯業未経験の事業者にはないスキルセットで業務を進められるため、難しい場面でも解決に結びつけられる可能性が高いです。もちろん、単純に斯業経験があるだけで審査に通過するわけではありません。開業する業界における幅広い経験・スキル・知見などを身につけていることで、経営者として良い影響を及ぼすと考えられます。斯業経験の有無は業績に大きな影響を与えており、審査に大きく影響を及ぼす部分と言えるでしょう。
滞納・延滞・債務整理をして信用情報に問題があった
日本政策金融公庫の審査に落ちる理由として、信用情報に問題があります。
滞納・延滞・債務整理などの経験がある事業者は、信用情報に傷がついている可能性が高く、審査において大きな影響を及ぼします。融資審査は返済能力を入念に確認されるため、過去に金融事故を起こしていると大きなマイナスポイントとなります。
信用情報に問題があるだけで審査に落ちる可能性は低いものの、金融事故から短期間の内に申し込むと返済能力が乏しいと判断されるケースが多いです。過去に金融事故などの信用情報に傷をつけることがある場合は、5年〜10年程度期間を空けてから申し込みましょう。
また、信用情報は信用情報機関に登録されており、情報開示請求制度を利用すれば現在の状況を確認できます。信用情報機関への情報開示にはインターネット・郵送から選んで申し込みが可能です。信用情報に不安を感じる場合は、事前に自身の信用情報を把握しておきましょう。
面談時に事業計画書の内容をうまく説明できなかった
日本政策金融公庫の融資審査に落ちる理由として、面談時の対応が挙げられます。
審査では自己資金要件の達成や事業計画書の提出以外にも、融資担当者との面談が必要です。融資担当者との面談では、事業計画書をもとに事業内容の説明や融資を希望する理由を説明します。融資担当者へ事業計画書に記載されている内容を返答できなければ、審査に落ちる可能性が高いです。
スムーズで完璧に応える必要はありませんが、コミュニケーション内で垣間見える人柄や深堀される内容に対して代表者としての説明が求められます。さらに、事業内容は熱意だけではなく数字を用いて論理的に話す必要があります。
事業計画書の内容に対する根拠がなければ、融資担当者からの質問に対して正しく回答ができません。事業内容や市場感を理解してもらうためにも、エビデンスをもとにわかりやすく事業内容を説明する必要があるでしょう。
日本政策金融公庫の再審査は半年以降しかできない
日本政策金融公庫の再審査の申し込みを検討している場合「そもそも再審査って受け付けているの?」「前回の申し込みからどれだけ期間を空ける必要があるの?」などの疑問が出てくるでしょう。
日本政策金融公庫は再審査を受け付けており、前回の申し込みから半年間の期間が必要です。半年経過していない状況で申し込んだとしても受け付けてもらえないため、一度審査に落ちた場合は期間を空けましょう。
また、日本政策金融公庫の審査に落ちた場合の対処法は、以下のとおりです。
- 希望融資額の3分の1程度は自己資金を用意しよう
- 創業融資を得意としている認定支援機関を利用する
- 公庫の審査が厳しいなら他の融資制度を検討しよう
それぞれ順に解説します
希望融資額の3分の1程度は自己資金を用意しよう
日本政策金融公庫の審査に落ちた場合、希望融資額の3分の1程度は自己資金を用意しましょう。
日本政策金融公庫の審査では、自己資金の金額が審査要件の一つとして確認されます。かつては自己資金の要件に関するボーダーラインは、創業資金総額の10分の1とされていました。
しかし、実際に融資を受けられる自己資金額は、希望融資額の3分の1程度あることが望ましいです。要件に対してギリギリの自己資金を用意したとしても、再審査に通過する可能性は低いと言えます。
もちろん、審査に通過する可能性はありますが、希望金額を融資してもらえないケースが多いです。そのため、用意する自己資金は希望融資額に対して3分の1と意識しておきましょう。
家族や親族からお金を借りても自己資本に含まれる
審査要件の自己資金が足りない場合、家族や親族から借りて自己資本にする方法があります。
一般的に家族や親族からお金を借りた場合、自己資金として認められないケースが多いです。一方、日本政策金融公庫は創業前・設立してすぐの事業者に特化した融資制度を用意しています。融資担当者との面談時に家族や親族から借りたことを打ち明け、見せ金ではないことを伝えれば理解してもらえる可能性があります。自己資本比率の高さは融資金額にも直結する部分となるため、説明できるよう資金を集めましょう。
また、友人や知人から出所不明金が発生した場合、融資担当からの理解は得にくいです。見せ金の疑いを晴らすためには、融資担当者に対して真摯な姿勢で、現状を説明することが重要です。
創業融資を得意としている認定支援機関を利用する
日本政策金融公庫の審査に落ちた場合は、創業融資を得意としている認定支援機関の利用を検討しましょう。
認定支援機関とは、専門的な経験や知識を用いて小規模・中小企業向けに資金調達をサポートする支援機関を指します。認定支援機関が経営課題の解決や融資審査の対策などを得意としており、事業者に合わせた支援事業を展開しています。
日本政策金融公庫の審査に落ちた際に認定支援機関へ相談することで、客観的かつ専門的な意見を得られます。認定支援機関を利用すれば「なぜ審査に落ちたのか」や「再審査までにどこを改善するべきなのか」を具体的に把握可能です。
また、認定支援機関を選ぶ際は創業融資を得意としているか確認しましょう。過去に創業融資に関するサポート実績のない認定支援機関を利用した場合、自社の求めている情報を得られなかったり、適切なアドバイスをもらえなかったりします。日本政策金融公庫の審査通過を目指す場合は、通過実績をはじめとしたノウハウ・経験を持つ認定支援機関の選択が欠かせません。
さらに、認定支援機関を利用する際は手数料や費用が明記されているかのチェックが必要です。公式HPに明確な費用が掲載されていないと、依頼後に担当者と費用面のトラブルが起こるリスクがあります。正式依頼する前に無料面談などを行い、信頼できる認定支援業者か確認しておくと安心です。
日本政策金融公庫とパイプのある行政書士がおすすめ
認定支援機関を選ぶ際は、日本政策金融公庫とパイプのある行政書士がおすすめです。
日本政策金融公庫とパイプのある行政書士は、融資担当者と面識があるケースも少なくありません。そのため、他の支援機関が知らない情報を把握していたり、より深いアドバイスを得られたりします。効率的に日本政策金融公庫の融資を受けるためにも、最適な依頼先と言えるでしょう。
また、日本政策金融公庫とパイプのある行政書士は豊富なノウハウを保有しています。審査に通過しやすい事業計画書の作成方法や面談時の想定質問などの対策もできるため、有利に審査を進められるでしょう。
公庫の審査が厳しいなら他の融資制度を検討しよう
日本政策金融公庫の審査が難しい場合は、他の融資制度を利用するのも一つの方法です。
日本政策金融公庫の審査に落ちた際は、半年間待たなければ再審査は申し込めません。できる限り早く審査を受けたい事業者は、民間の金融機関や地方自治体が提供している融資制度がおすすめです。
おすすめの融資制度は以下の2つです。
- 信用保証協会が保証して融資を受ける保証付融資
- 自治体・信用保証協会・金融機関が行う制度融資
それぞれ順に解説します。
信用保証協会が保証して融資を受ける保証付融資
他の融資制度を検討している場合、信用保証協会が保証して融資を受ける保証付融資を検討してみましょう。
信用保証協会とは、信用保証協会法に基づいて中小規模の事業者へ資金調達の支援を行っている機関です。信用保証機関を利用する場合、事業者と金融機関の間に入って資金調達をサポートしてもらえます。原則として法人代表者以外の連帯保証人・担保は不要で申し込めます。
また、信用保証協会を利用すれば、万が一、返済が滞った際でも代位弁済を実施するため、比較的融資を受けやすいです。ただし、信用保証協会への申し込みも審査が必要となるため、あらかじめ注意しましょう。
自治体・信用保証協会・金融機関が行う制度融資
自治体・信用保証協会・金融機関が行う制度融資とは、それぞれが連携して提供する制度融資です。
金融機関からの融資に対して信用保証協会が保証を提供し、自治体が利息の一部を補填してくれます。それぞれの機関が融資を補填し合うため、日本政策金融公庫の審査に落ちた場合でも通過する可能性があります。自治体によっては長期的に利息を補填してもらいながら融資を受けられるため、コストを抑えて利用が可能です。
ただし、3つの機関と連携しながら手続きを進めるため、2〜4ヶ月程度時間がかかります。信用保証協会法よりも審査実施まで時間がかかるため、すぐに融資を受けたい場合は注意が必要です。